アールネ・トンプソンのタイプ・インデックス(AT分類)は、1910年にフィンランドの民俗学者アンティ・アールネによって開発され、その後アメリカの民俗学者スティス・トンプソンによって大幅に拡張された民話分類体系です。この分類システムは、ヨーロッパから中近東にかけて伝承されてきた民話を、その物語パターン(タイプ)に基づいて体系的に整理したものであり、現在も民俗学研究における国際的な標準として広く使用されています。
AT分類の最大の特徴は、個々の民話を約2,500の物語類型に分類し、それらを7つの主要カテゴリーに整理している点です。動物昔話(1-299)から始まり、本格昔話(300-749)、宗教物語(750-849)、現実的物語(850-999)、愚かな鬼の物語(1000-1199)、逸話と笑話(1200-1999)、形式譚(2000-2399)へと続きます。この体系的な分類により、研究者は異なる文化圏に存在する類似の物語を容易に比較・参照することが可能となりました。
この分類体系は、比較民話研究において不可欠なツールとしての地位を確立しています。例えば、「シンデレラ」の物語はATU 510として分類されており、世界各地に存在する類似の物語(中国の「葉限」、日本の「糠福と米福」など)との比較研究に活用されています。このように、AT分類を用いることで、異なる文化背景を持つ物語間の共通性や相違点を科学的に分析することができます。
2004年には、ドイツの民俗学者ハンス=イェルク・ウターによってATU分類として改訂されました。この改訂版では、従来のAT分類の曖昧な記述が精緻化され、東欧・南欧の物語が追加され、250以上の新たなタイプが加えられるなど、大幅な改善が行われました。しかし、約100年にわたって使用されてきた型番号の継続性は維持されており、過去の研究との整合性が保たれています。
AT分類は、民俗学者や文学研究者だけでなく、図書館員、教育者、創作活動に携わる人々にとっても有用なツールです。民話の起源や伝播経路を理解するための手がかりを提供し、文化間の相互影響を分析する際の共通言語として機能します。また、この分類体系を理解することで、私たちが親しんでいる昔話がより広い文化的文脈の中でどのような位置を占めているかを把握することができ、物語の普遍性と文化的多様性の両面を認識する助けとなります。