概要

昔話の型(ATU分類)

昔話の型(ATU分類)は、フィンランドの民俗学者アンティ・アールネが1910年に創設し、スティス・トンプソンとハンス=イェルク・ウターによって増補・改訂された国際的な昔話分類体系です。世界各地に伝わる昔話を「動物昔話」「本格昔話(魔法昔話)」「笑話・逸話」「形式譚」などの大分類に整理し、各話型にAT番号(ATU番号)を付与して体系化しています。この分類体系は民俗学や比較文学の研究において世界標準として広く活用されており、異なる文化圏に存在する類似した物語の比較研究を可能にしています。

民俗学 昔話 口承文芸 比較文学 物語類型 ATU分類 アールネ・トンプソン
コード スラッグ 名称 概要 examples subcategories
1-299 animal-tales 動物昔話 動物を主人公とした昔話の分類です。 ["ライオンとネズミ","狐と烏","ブレーメンの音楽隊"] [{"code":"1-99","name":"野生動物"},{"code":"100-149","name":"野生動物と家畜"},{"code":"150-199","name":"野生動物と人間"},{"code":"200-219","name":"家畜"},{"code":"220-299","name":"その他の動物・物"}]
300-749 tales-of-magic 魔法昔話(本格昔話) 超自然的な要素を含む魔法や奇跡の昔話です。 ["シンデレラ","白雪姫","赤ずきん","ラプンツェル","青ひげ"] [{"code":"300-399","name":"超自然的な敵"},{"code":"400-459","name":"超自然的な配偶者"},{"code":"460-499","name":"超自然的な課題"},{"code":"500-559","name":"超自然的な援助者"},{"code":"560-649","name":"魔法の品物"},{"code":"650-699","name":"超自然的な力"},{"code":"700-749","name":"その他の超自然的な話"}]
750-849 religious-tales 宗教昔話 神や聖人、天国や地獄などの宗教的主題を扱う昔話です。 ["聖者の奇跡","天国と地獄","悪魔との契約"] [{"code":"750-779","name":"神の報酬と罰"},{"code":"780-791","name":"真実は明らかになる"},{"code":"800-809","name":"天国"},{"code":"810-826","name":"悪魔"},{"code":"827-849","name":"その他の宗教昔話"}]
850-999 realistic-tales 現実的昔話 超自然的要素を含まない現実世界を舞台とした昔話です。 ["賢い農夫の娘","忠実なヨハネス","博士万能"] [{"code":"850-869","name":"姫を妻に得る話"},{"code":"870-879","name":"女性が夫を得る話"},{"code":"880-899","name":"貞節と忠誠の証明"},{"code":"900-909","name":"頑固な妻は矯正される"},{"code":"910-919","name":"良き教訓"},{"code":"920-929","name":"賢い行為と言葉"},{"code":"930-999","name":"運命の話"}]
1000-1199 tales-of-ogre 愚かな鬼の話 愚かな巨人や鬼、悪魔を知恵で出し抜く昔話です。 ["勇敢な仕立屋","長靴をはいた猫","ジャックと豆の木"] [{"code":"1000-1029","name":"労働契約"},{"code":"1030-1059","name":"財産の分配"},{"code":"1060-1114","name":"力比べ"},{"code":"1115-1144","name":"鬼を殺そうとする人間"},{"code":"1145-1154","name":"鬼を怖がらせる"},{"code":"1155-1169","name":"鬼の魂を脅かす"},{"code":"1170-1199","name":"人間が悪魔を出し抜く"}]
1200-1999 anecdotes-and-jokes 笑話・逸話 愚か者や機知に富んだ人々の滑稽な話です。 ["愚か村の話","トリックスター","ほら男爵の冒険"] [{"code":"1200-1349","name":"愚か者の話"},{"code":"1350-1439","name":"夫婦の話"},{"code":"1440-1524","name":"女性の話"},{"code":"1525-1639","name":"機知に富んだ男の話"},{"code":"1640-1674","name":"偶然の幸運"},{"code":"1675-1724","name":"愚かな男の話"},{"code":"1725-1849","name":"聖職者の話"},{"code":"1850-1874","name":"その他の集団の話"},{"code":"1875-1999","name":"ほら話"}]
2000-2399 formula-tales 形式譚 累積や連鎖など定型的な構造を持つ昔話です。 ["おむすびころりん","大きなかぶ","これはジャックが建てた家"] [{"code":"2000-2100","name":"累積譚"},{"code":"2200-2299","name":"ひっかけ話"},{"code":"2300-2399","name":"その他の形式譚"}]
2400-2499 unclassified-tales 未分類の昔話 上記の分類に該当しない昔話です。 ["地域固有の昔話","複合型昔話"] []

昔話の型(ATU分類)は、世界中に伝承される民間説話を科学的に分類・整理するための国際的な標準体系です。1910年にフィンランドの民俗学者アンティ・アールネによって創設され、その後アメリカの学者スティス・トンプソン、ドイツの研究者ハンス=イェルク・ウターによって増補・改訂されてきました。この分類体系により、異なる文化圏で語り継がれてきた類似の物語パターンを体系的に比較研究することが可能となっています。

ATU分類は、昔話を「動物昔話」「魔法昔話(本格昔話)」「宗教昔話」「現実的昔話」「愚かな鬼の話」「笑話・逸話」「形式譚」という主要カテゴリーに大別し、各カテゴリー内でさらに細分化された番号体系を採用しています。例えば、世界的に有名な「シンデレラ」はATU 510Aに分類され、「魔法昔話」の中の「超自然的な援助者」というサブカテゴリーに位置づけられています。この番号体系により、研究者は世界中の類似した物語を効率的に特定し、その分布や変容を追跡することができます。

この分類体系の意義は、単なる物語の整理にとどまりません。人類が共有する普遍的な物語パターンの存在を明らかにし、文化を超えた人間の想像力や価値観の共通性を示す重要な証拠となっています。日本の昔話研究においても、関敬吾の『日本昔話大成』や『日本昔話通観』などでATU分類が参照され、日本固有の昔話と世界の昔話との関連性が明らかにされています。浦島太郎や桃太郎といった日本の代表的な昔話も、この国際的な分類体系の中で位置づけられ、世界の類話との比較が可能となっています。

現代においても、ATU分類は文学研究、文化人類学、心理学など多様な分野で活用されています。物語療法や児童文学研究、さらにはAIによる物語生成研究においても、この分類体系が基盤として参照されることがあります。デジタル化が進む現代社会において、口承文芸としての昔話を体系的に保存・研究するための基盤として、その重要性は今後も継続していくと考えられます。