民間文芸のモチーフ索引(Motif-Index of Folk-Literature)は、アメリカの民俗学者スティス・トンプソン(1885-1976)が1932年から1936年にかけて編纂し、1955年から1958年に増補改訂した全6巻の包括的なモチーフカタログです。この索引は、世界中の民話、神話、伝説、バラッド、中世ロマンス、笑い話など、あらゆる伝承文学に登場するモチーフ(物語を構成する最小の要素)を体系的に分類しています。AからZまでのアルファベット(I、O、Yを除く23文字)を大分類とし、数千ものモチーフが収録されており、比較民俗学研究における国際的な標準ツールとして世界中の研究者に利用されています。
この索引の最大の価値は、異なる文化や地域で語られる物語の共通性を客観的に分析できる点にあります。たとえば、日本の羽衣伝説とヨーロッパの白鳥処女伝説が同じモチーフ(D361.1)として分類されることで、地理的・文化的に離れた地域間での物語の類似性を科学的に比較研究することが可能になります。また、灰かぶり姫(シンデレラ)型の物語が世界各地に存在することも、このモチーフ索引を通じて体系的に把握できます。研究者は特定のモチーフがどの地域でどのような形で現れるかを追跡し、人類共通の物語パターンや文化固有の変異を明らかにすることができます。
実際の利用方法としては、分析したい民話の各要素をモチーフに分解し、該当するモチーフ番号を特定していきます。たとえば、ある民話に「継母が主人公を迫害する」要素があれば、Sカテゴリ(不自然な残酷さ)のS31「残酷な継母」を参照します。「主人公が動物の助けを借りる」場合は、Bカテゴリ(動物)のB300番台「援助してくれる動物」を確認します。このように物語を要素に分解し、それぞれにモチーフ番号を付与することで、異なる物語間の構造的類似性や相違点を明確化できます。アールネ=トンプソン=ウーサー話型索引(ATU)と併用することで、物語の型とその構成要素の両面から包括的な分析が可能となります。
この索引は単なる学術的ツールにとどまらず、現代の創作活動にも応用されています。小説家や脚本家が普遍的な物語パターンを理解するために参照したり、ゲームデザイナーが神話的要素を取り入れる際の参考資料として活用したりしています。また、比較文化研究、人類学、心理学、文学理論など、民俗学以外の分野でも重要な参照資料となっています。デジタル化された現代においても、この索引の体系性と網羅性は色あせることなく、人類の物語文化を理解するための基盤的な知識体系として機能し続けています。
民間文芸のモチーフ索引の23カテゴリは、神話モチーフ群(A)から始まり、動物(B)、禁忌(C)、魔法(D)、死者(E)、不思議(F)、鬼(G)、テスト(H)、賢い人と愚か者(J)、騙し(K)、運命の逆転(L)、未来を定める(M)、偶然と運命(N)、社会(P)、報いと罰(Q)、とりこと逃亡者(R)、不自然な残酷さ(S)、性(T)、人生かくのごとし(U)、宗教(V)、性格的特質(W)、ユーモア(X)、その他のモチーフ群(Z)まで、人類の物語文化のあらゆる側面を網羅しています。この分類体系は、民話が単なる娯楽ではなく、人間の根源的な欲求、恐怖、希望、価値観を反映する文化的表現であることを示しています。